レユニオン〜愚か者の対角線〜《佐々木裕介》
インド洋に浮かぶ島、レユニオン島のレースに参加してきました。
レースの名は”Grandraid Reunion”。
僕は100マイルのカテゴリー、その名も”Diagonale des fous(愚か者の対角線)”にエントリーしました。
初の100マイル完走にむけて遥かな旅へ・・・
■レユニオン島
アフリカ大陸の東、インド洋に浮かぶ火山島。フランスの海外県で面積2,512平方キロメートル(神奈川県と同じくらい)、人口約84万人。多雨で植生はとても豊か。海に囲まれているため湿度も高く日本の夏に近い気候。海岸線の街は公園などもあり良い雰囲気。
■Grandraid Reunion
レユニオン島の一大イベントとなるトレイルレース。レースカテゴリーは166km, 112km, 65kmと4人のリレー形式で182km進む4カテゴリー。スタート時には何万人(?)もの人たちが集まり、数キロの間、沿道からの大声援が続く。花火まで打ち上がり、大きな盛り上がりを見せる。
100マイル(166km)のコースは、島の南から北に向けて厳しい山岳地帯を縦断するコースレイアウトとなっており、そこから”Diagnale des fous(愚か者の対角線)”と呼ばれている。
■レース模様
Diagonale des fousは木曜日の22時スタートです。
一緒にスタートする仲間と昼間にはスタート地点に向かい、食事をとったり仮眠したりしていました。16時にはスタート会場がオープンされ、そこで必携品のチェックが行われます。必携品チェックは英語で対応してくれました。
無事にチェックを終えてからスタート時刻までしばらく待ち時間になります。会場では音楽ライブが開かれていたり、軽食が取れたりでそれなりに楽しめます。
スタート直前、ランナーたちのボルテージがどんどん上がってくるのを感じます。
その時、できるだけ前に行こうとするランナーたちのラッシュに巻き込まれ、近くにあった柵が倒れ、僕の脚にクリーンヒット!いきなり脛を15cmくらいざっくり切るトラブル発生!
なんという波乱のスタート!
皮膚とその下の脂肪までざっくり切れて、なかなか見た目は派手でしたが、幸い出血は少なく、骨折のような大きな怪我ではなかったことにむしろ安心しました。
ひとまず手持ちのファーストエイドを使って自分で処置し、スタート後、次のエイドでちゃんと治療してもらいました🏥
スタートから数キロは応援が絶えない凄い盛り上がり。
「アレ!アレ!(Go! Go!)」「バブ!バブ!(ブラボー)」など絶え間ない声援、ハイタッチ、そしてダンス!
花火まで上がってちょっとスター気分を味わえます😁子供達の応援は可愛かったなぁ。
ただ、ここであんまり調子に乗ると後で痛い目に合いそうなので、淡々と進みます。
大盛り上がりのスタート
前半は海岸線からレユニオン島の中心部に向かって2,000m登っていきます。
夜スタートなので山の中に入るとどんどん寒くなります。
星空がとても綺麗に見える快晴だったので、放射冷却も厳しく日の出直前の気温は0度!
まぢで寒い。凍える。
僕は体が冷えやすいので、防寒具をたんまり持っていっていて助かりました。
周りには早速エマージェンシーシートに包まるランナーも多数。
島の中心部に近づくにつれて、山岳パートも増えてきます。
夜明けを迎えると、朝日に照らされた山々が美しく浮かび上がってきます。
ここが最初の感動ポイント。月と朝焼けと山脈のコラボ。思わずため息が漏れるような景色でした。
ここからしばらくは牧草地帯を気持ちよくラン。
ちょっと飛ばしすぎなくらいのペースで走っていると、いきなり牛の集団が現れてびっくりすることも!
その後、2,000m付近での登り下りを何度か繰り返した後、一気に800mの激下り。
この下りの斜度がキツくて辛かった〜。
ちょこちょこ時計で高度を確認しちゃうのだけど、全然標高が下がっていかない。一気に足に疲労が溜まっていきました。
63km地点のシラオスで1回目のドロップバッグ。15時頃に到着。
食事をとって、コンタクトも付け替えてリフレッシュ。(シャワーもあったけど、混んでいたのでパス)
さらにここで嬉しいことに、トリッパーズ仲間の弥生さんと会うことができました。国内のレースと違って、レース中に知り合いと会うことが全然ないので、この出会いは嬉しかった。山の仲間っていいですよね。
そして、ここからいよいよレース中盤の本格的な山岳パートが始まります。
レユニオン島の山は2,000m級なのですが、火山島の山なのでいきなり垂直にドーーンって感じでまるで壁のようにも見えます。
そんな山登りで一気に疲労が溜まり、眠気も相まって75km地点で身も心も既にボロボロ。それなのに、まだ全体の半分も終わっていない事実に心が折れ、かなりマイナス思考になってました。
「これはリタイヤになるかも」とか
「もう100マイルなんて出るもんか」とか
「もうトレランとは距離をおこう」とか本気で考えてました😂
今から思うと、そこまで弱気にならなくてもと思いますが、人間ってメンタルが落ちると変なこと考え始めちゃうんですね。。。自分の弱さの新たな一面を発見しました😅
そんな状態でしたが、なんとか自分を誤魔化しながら山の中を進んで行きました。
「疲れたと言っても、まだ座り込んじゃったわけじゃないじゃない」
「ゴールしたら、めっちゃチヤホヤしてもらえるぞ」(←これ、めっちゃ効いた)
なんて自分に話しかけてました。
ただ、極度の疲労は誤魔化しきれず2日目の夜には眠気がMAXに!このときは3歩歩くと立ったまま寝ちゃうという状態😂
自分でも「まぢか?!」って驚きました。そんなことを何度も繰り返していたら、見かねたフランス人ランナーさんが「おーーい!」って声かけてくれたうえで、"行くぞ"みたいなジェスチャーをしてくれて、その刺激で少しまた進めるようになりました。
この辺りからは初の幻覚も体験。トレイルにあるはずもない電気に照らされたトンネルが見えたり、道のないところをランナーが走っていたり、アイドルを応援するときに使うサイリウムを2本持って踊りながらランナーを誘導するスタッフが見えたり。
なかなか苦しい夜でしたが、日が昇ってからは、ようやく身体が「こいつ、寝る気ないな」と諦めてくれたのか、身体が軽くなって、再び走り始めることができました。
100kmを超えてから、いよいよ1番きついマイドの1,500mのゲキ登り!
直射日光のもとでは30度近い気温でしたが、ここはわりと淡々と登り続けることができました。
山頂では沢山の方が応援してくれていて、思わず両手を挙げて「ふぉーー!!」と叫ぶ。すると、まわりの方々もそれに応えてめっちゃ盛り上がってくれてテンション爆上げでした!
ここで元気をもらって120km地点の2つ目のドロップバッグまではどんどん他のランナーを抜きながら走れました。
ロングトレイルを走っていると、たまに訪れる無敵感、マリオのスター状態。
どこまでも走っていけそうな気分になります。
そんな感じで気持ちよく120km地点にたどり着いたので、最後の後半40kmは余裕だななんて思ってました。
「このままサクッと100マイラーだな。高低図を見てももう600〜700m程度の低山しかないし」
ところが現実はそう甘くはなかった。。。
標高は低いながらも登り下りの繰り返し。また、この辺りからは、ジェル、トレイルバター、エネもちなども一切受け付けなくなり、エネルギー切れ直前。
ジェルを摂ることを想像しただけで「うぇっ」ってえづく感じでした。
そんな状態で、僕が1番辛かった石畳の登り下りが永遠続くパートへ。
この辺りで3回目の夜が訪れました。
石畳は変化が少なくどれだけ進んでも景色が変わらないので、ほんと悪夢のようでした。
ここで再び幻覚がダダ漏れ状態。雑木林を家や人に見間違えながら進み続けます。(髪の長い女性がトレイルの脇で筋トレマシーンに座っている幻覚も)
あまりにも辛くて「一体、誰がなんの目的で、どうやってこんなボコボコな石畳を作ったんだ!!」って思いながら進んでました💦
そんなことを繰り返しつつ、ようやくエイドに到着。スタッフの方に「どうだった?」って聞かれたので、「辛すぎた。ナイトメアだ!」って答えました。スタッフの方、苦笑い!
エイドの食事(パンやコーラ)は取れたのでこれらでカロリーを蓄え、いよいよ最後のパートへ。
最後の山も低山ながら永遠に登り下りの繰り返し。「ここさっきも通らなかったっけ?」っていうような似たようなトレイルを何度も行き来します。
同じようなペースのランナーと先頭を順番に入れ替わりながら、数時間進み続け、ようやく最後の山頂に到着。長かった・・・。
最終エイドを出てからしばらくすると、ゴール且つ僕らの宿があるサン=ドニの街並みが眼下に見えてきました。夜だったので山の上から見た街の夜景がとても綺麗。思わず立ち止まり、これまでの苦しかったレースのことを思い出しながら、感慨深く夜景を眺めました。
これでいよいよ最後だなという想いとともに、街の夜景を目に焼き付けます。
ここまできたからには、とにかく怪我をせずゴールできるよう慎重に下山。
とうとう街に降りると沿道から「バボ、バボ!!(ブラボー)」とか「Congrats!!」とか沢山の声援をもらい、「メルシー!」って応えながら最後のランを楽しみます。
思えばこの3日間で一生分「メルシー」って言った気がします。
最後は街のグラウンドでゴール。嬉しさの爆発、感涙というよりは、この瞬間はむしろ安心感に包まれました。
重みのある完走メダルとフィニッシャーTを受け取りようやく一休み。
しばらく休んでから仲間のいるアパートメントに帰りました。思考能力がかなり低下していることもあって、道に迷うというオマケ付き(T . T)
100マイルはやはり簡単ではなかったです。最後の最後まで気の抜けない厳しさがあったし、実際、何度ももうダメかもって瞬間がありました。
なんとか走り切ったものの、100マイルを攻略できたかと言われると、全然そんなことはなくて課題だらけ。
そんな状況の中でも完走できたのは、レユニオンの壮大で美しい山々のおかげかも。何度も身震いするような感動がありました。
100点のレースではないにせよ、まあ頑張ったとは言えるかな。しばらくの間は、諦めずに完走した喜びの余韻に浸らせてもらおうかと思います。
最後に・・・
今回同行していただいた松井さん、みきてぃ、くまちゃん、本当にありがとうございました。みなさんがいなければ、僕の人生でこんな大冒険にチャレンジすることはなかったのではないかと思います。
あー、楽しかった。
タイム 54時間17分41秒
順位 1358/1953
出走者 2713
完走率 72%
以下、レユニオンを走ってみたい方への参考情報です。
■普通のおじさんが100マイルをなんとか走りきるために取り組んだトレーニング内容
・普段はロード、トレイル合わせて月間走行距離230km前後
・レース前の数ヶ月間は週1回山に入って20〜30km走る
・その他はロードで主にジョグ。1ヶ月に1回程度、全力で10kmラン
・レース2か月前の走り込み期間となる8月は猛暑時間帯を狙って暑熱順化
・正直10月までに暑さ慣れの効果はだいぶ薄まっちゃうけど暑さへの苦手意識は克服
・8月の走行距離330km
・1月から何度か長距離練も実施。家の近くの玉川上水で仲間と100kmラン。
青梅マラソン+自宅からのラン+高水山トレイルを1日で走ってトータル75kmラン。
奥多摩駅〜雲取山ピストン40km。
・8月末に北アルプス縦走。2日で35km。
・トレイルのトレーニングは基本、遊びの延長
・トレーニングも大事だけど、トレーニングを通して自分のことをよく知ることも大事だなぁと思いました。どれくらい補給が必要なのかとか、防寒具はどれくらい必要かとか。こればかりは体質によるので、一般的なセオリーを参考に、自身での人体実験を重ねるしかない。
■エントリー
エントリーは毎年2月頃からオフィシャルサイトで募集開始。僕は6月頃にエントリーしたのですが、その時点では既にオフィシャルサイトでは普通にエントリーできず、「エントリーしたい奴は連絡して」って書いてある状態でした。
友人の助けを借りて、主催者にメールしてエントリーしました。エントリー手続きはフランス語か英語です。エントリー後の各種連絡もどちらかの言語です。
たまにフランス語のみのInfomationが来て全く読めないことも(T ^ T)
専用のWeb画面を通して、パスポートと所定の健康診断書(のようなもの)の提出も必須です。
■費用
エントリー費は20,000円程度。制限時間が66時間あるので、最大限遊ぶと1時間300円程度。コスパよし。
一番コストがかかるのは航空機代。路線にもよりますが安いのを選べば20〜30万で行けると思います。
■海外レース
今回は私にとって、初の海外レースでした。海外だとどうしても現地までの移動時間や時差などがあって、国内と比較すると直前までのコンディション調整が難しいかも。
まあ、私はあまり細かいことを気にする性格でもないので、そんなに大きなストレスにはなりませんでした。
それよりもっと大変なのが、現地でのホテルや移動の計画を立てること。今回は一緒にレースに参加した仲間が、その辺りをまるっと対応してくれたので、本当に助かりました・・・。自分一人では無理だった。。。
ちなみに現地での買い物はクレジットカードで事足りました。(VISA、Master)
■参考:私の主なレース歴
・ハセツネ2回完走(2017,2018)
・トレニックワールド彩の国100k完走(2018)
・UTMF(2019. 積雪のため114kmで終わり)
・フルマラソンベストは3時間17分
本当にとても良いレースなので、皆さんも都合がついたら是非参加してみてください。
Now the adventure begins!!
プロフィール
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飛騨高山出身です。中学から始めたバスケットで、高校生の時には全国制覇を目指しガチにやってました。そして体育大学入学をきっかけに東京へやってきました。
大学卒業後は、スポーツとは無縁のゴロゴロ生活を長くしていましたが、2015年冬の全国大会で母校が全国制覇を果たした瞬間をコートサイドで見て、その後輩たちの姿に感動し、刺激を受け、また身体を動かしたくなったのが走り始めたきっかけです。
会社の仲間に誘われ、1年後の2016年「TOKYO八峰マウンテントレイル」に出場したのが、私のトレランデビューです。その時に立川でトレラン専門ショップがOPENすると知り心躍ったのを今でも覚えています。
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