トルデジアンにいってきたよ〈レース編〉episode1〜レーススタート≪高瀬治夫≫

2024 TOR330 report episode1 ~レーススタート : 旅の始まり

プロローグ準備編』はこちら ←まずはこちらからどうぞ

最初に少し補足しておきます。

TORは6つのライフベース(LB)があり、それによって区切られた7つの区間でよく話が整理されます。ここでは各区間を“セクション”として、便宜的に1~7のセクションとして書いています(今回5~7は登場しませんが(T_T))。一般的には偶数セクションが厳しいというのが通説です。

各セクションだけでもそれなりにハードなトレランレースに匹敵するスペック

セクション1234567合計
距離:km48.5555.4545.7754.2333.6248.0449.66335.32
D+ :m4,3394,9432,7685,9333,0944,6253,90629,608
D- :m3,8775,0983,9814,8812,9664,7464,05929,608
平均斜度8.94%8.91%6.05%10.94%9.2%9.63%7.87%8.83%
IN関門 :h 19426285105127150
OUT関門 :h 21446487107129
区間予想 :h 15211424132218147
LB滞在 :h 344243
IN累計 :h 15395785100126147
OUT累計 :h 18436187104129
オフィシャルの「コースプロフィール」、「関門時間」、私の「区間予想時間&LB滞在予定時間」、「IN&OUT累計時間」

この表はコースプロフィールに対し、私が事前に立てた各セクションの予想時間やLB滞在予定時間です。完走目標の初挑戦のおじさんは制限時間150時間に対して147時間かけるシナリオを描いていました。始めから、セクション4&6は関門ギリギリで休憩時間を削って対応せざるを得ない覚悟です。願わくば前半で貯金でも作れないかな、と淡い期待を抱いておりました。

最初の2つのセクションはデカいコルを3つづつやっつける必要があり、かなり大変なセクション。セクション3以降は最初の2セクションほどデカいコル等の登場は控えめになりますが、疲労やトラブル等を抱える中で、プロフィール以上に厳しい闘いを強いられます。特にセクション4は想像以上に時間がかかる嫌らしいプロフィールの鬼門で、ここを越えられれば完走確率が格段に上がるそうです。はい、そして私は見事にセクション4で退場となります。

また、日一日秋が進行するこの時期は後半ほど天候が荒れる傾向があり、制限時間ギリギリの人ほど荒天への覚悟が必要です。

GPXデータ等のコースデータはオフィシャルスポンサーのガーミンが提供したものですが、今回自分のガーミンによる手元計測では「距離が1割増」「標高は+-ともに1割減以上」というコレまでにない大きめの誤差が常に出ており謎でした。日本育ちの自分のガーミンも初海外で緊張したのだろうか…

もくじ

  1. ホテル出発
  2. セクション1 Courmayeur⇒Valgrisenche
  3. LB1 Valgrisenche
  4. セクション2 Valgrisenche⇒Cogne
  5. LB2 Cogne

補足:完走していない割に、結構なボリュームになっているのでご注意ください。トルデジアンのレースレポートである一方で、「極度の睡眠負債が人体に及ぼす影響」についての人体実験レポートでもあります。

また、自分が次回挑戦時に教訓として思い出せる様な備忘的な内容が多くなってますので、重ねてご容赦ください。

1.ホテル出発

スタートは2つのグループに分かれており、第1ウェーブが10:00、第2ウェーブが12:00スタートです。ウェーブ間が2時間も開いています。itraポイントも普通以下で、実際に遅い私は当然第2ウェーブです。ホテルでたっぷりと朝食を摂り、ゆっくりと準備はできました。ただ後から振り返ると、意外にこの2時間が恨めしい。各関門はネット時間なので影響ありませんが、前半セクションでは難所の通過タイミングが明るいか、暗いかの分かれ目に思えました。とはいえ自分が遅いのが問題であり、第2ウェーブでもサッサと進めるのであれば何の問題もありません。

第1ウェーブは曇天のスタートでしたが、第2ウェーブは既に本降りの様相。スタート地点で濡れて待つのは嫌だったので、同じ第2ウェーブの他のツアー仲間と共にギリギリまでホテルで粘ることにしました。写真を撮ったりしながら、スタート30分ほど前にようやく出発します。

別に雨は嫌いではない。暑いより余程まし。1週間の長丁場だから雨くらい降るよね、と個人的には余裕です。

スタート地点到着は15分前くらいだったから、かなりの人でごった返してます。第2ウェーブも優に500名以上はいるから当然。

皆レインを着ているから人探しも難しく、知り合い探しも早々に諦めました。

レイン下も履いていたが、スタート待ち時点で自分には暑く、結局直前に脱ぎました。

2.セクション1Courmayeur ⇒ Valgrisenche

セクション1はいきなりD+1500レベルの登りからスタート、最初の関門も心配になる設定

44.85km D+4,339m D-3,877  予想15時間

セクション1のボス

  •  Col ARP 2,567m D+1,465
  •  Col Passo Alto 2,856m D+1,651
  •  Col de la Crosatie 2,822 D+711

レーススタート

憧れが現実のものとなり、あっという間のスタート。街中の声援を受けながら皆思い思いのペースで雨中をゆっくりと走り出しました。遅いウェーブだし、先は長いしでスタート特有のピリピリ感は皆無。スタート後はしばらく下り基調で、そこはさすがに皆ゆっくりと走るが、上りになると潔く歩く。トレイルに入る前のロード区間の最後のあたり、応援するMKT&MRTの両名にも会えた。

トレイル入口はシングルトラックにつき、噂通りの渋滞です。結構な雨の影響で路面は既にドロドロツルツルの部分も多く渋滞に拍車が…。でもこちらの人たちはトレイルを外れて進むことへの罪悪感は皆無なのでしょう。皆どんどん隙をみてはオフトレイルをガシガシ進んで抜かしまくります。渋滞だからとムリな追い抜きをするような訳ではないのですが、前がモタモタするのは我慢出来ない人たちのようで、行けると思えば道なき道をガンガン行くので驚きました。一昨年のハセツネを彷彿させるような急登ズルズルの場所も結構あり、皆好き勝手に登っていくのでなかなかのカオスとなります。

Col ARP

このレース一発目のボスCol ARP2,567mいきなり8.9km D+1,465です。どなたか言ってましたが「南アルプスの広河原~北岳肩の小屋」くらいのスペックです。でもまあ、レースなのでスタート直後の体力ゲージとアドレナリンのお蔭か、あっという間に登ってしまいます(絶対記憶補正あり)。コルを越え下りは比較的走り易いサーフェス(草原と林道、舗装道)で思いっきり走らされました。

ここで謎が解けます。

実は最初の関門La Thuile(約19km、D+ 1,600、5時間30分)が、スペックだけ見たら「結構厳しい」と一人緊張していました。でも昨年の145時間前後の完走者のこの関門の平均的な通過時間が4時間程度なので「やはりおじさんは場違いか」と思っていたのですが、ここの下りで走らされる故の設定と理解。私も丁度4時間位で最初の関門をクリアし杞憂に終わります。いきなりの関門アウトは、わざわざイタリアまで来て流石に滅入ると思っていたので、ここで精神的に大きく一息つきました。

ここではルクタス久保さんのサポートがあり、味噌汁、そうめん、梅干しを頂きます。でもこのレース中に私が久保さんとお会いするのはこれが最初で最後になるのでした。

因みに、この草原の走り易い下り区間、トレイルはなだらかなつづら折りでしたが、基本的に皆さん無視して直進しまくります。真面目につづらっていた自分は少数派で何十人にも追い抜かされます。もはやトレイルを真面目にトレースする変な日本人です。真似して草原の直進を試みもしましたが、あまりの牛糞の多さに直ぐに撤退しました。乾いて乾燥していると土のように同化しているようですが、雨で濡れると如何にもな糞に蘇るうえに、ドロドロだから踏むと被害が甚大です(⁠ᗒ⁠ᗩ⁠ᗕ⁠)

コルを超えると天気も変わり、雨はやみ景色が見え始めてきました。(基本的にコルの手前と向こう側では天気が違うことが多かったですね)

超超スローロングロングトレイン

La Thuile を出発し、2つ目のボス Col Passo Ato2,856mまでは D+1,651 。このパートは力が入らずに疲れた。自分のロングトレイル名物「元気」と「疲れた」のローテーションが早速始まっただけだと思い、気にしないことにします。いろんな人に道を譲りながら疲れたなりのマイペースでトロトロ進みます。それでも自分の想定ペースよりは良いペース。

この2つ目のコルで暗くなりました。下りの簡単な雪渓で見事に滑って転んだりしながら、エイドを挟み3つ目のボス Col de la Crosatie2,822mまで D+711という按配。 こいつは標高は高いものの、D+700程度なのでと既に余裕をかましてました。登り始めると今度は「元気ローテーション」が始まり、寒さ回避のためにもガツガツ登ります。丁度風雨も強くなり始め、標高を上げるにつれて激しさが増してゆきます。それでも調子が良かったため、Tシャツ+アームカバーにシェイクドライ、下は短パンで丁度良かったのです。

ところが、シングルトラックの急登つづら折りが始まると、先頭がどこだか見えないくらいの超超スローのロングロングトレインに乗車させられてしまいます。思うように体を動かすことが出来ません...暑がりと面倒くさがりが災いし、どんどん体温が低下するのがわかります。基本的に体はまだ動いていたのと面倒臭い(いい加減にしろ!)のとで、問題を先送りにし続けました。その結果、マジで後悔します..若干命の危機を感じるくらい寒くなりヤバかったです。トレインが崩れて動けるようになったところで、必死に登って体温を上げて乗切りました。

コル上部は激しい突風でうずくまっている人も出始めており、自分も低体温すれすれ状態だったのだろうと大いに反省、元気ローテーションも無駄に消費したと思いますが、逆に疲れたローテーションだったらと思うとゾッとします。

コルの写真は全部撮ろうと思っていましたが、ここではそんな余裕微塵もなく、即撤収です。振り返ってもこのレースにおける私の最大のピンチでした(前半だけですが)。トルデジアンの歓迎(洗礼)だったと思います。指先の凍え具合から気温マイナスだったはず。(第2ウェーブで自分の走力だと次回も間違いなく夜通過になるので、次回の要注意箇所です)

でも案の定、コルを超えると急に風が止み、雨は降ってましたが穏やかな天気に早変わり。

これでセクション1の3ボスをやっつけたので後は下るだけだったのですが、このあたりからだったか、足の小指の爪に悩まされ始めます。久しく感じていなかった小指の痛みであり「ここでくるのか」と。最初は右足だけでしたが、そのうち左足の小指も同様に始まります。普段ない症状になんでだろかとがっかりです。でもまだ初日、LBも近いし立て直そうとそろりそろりくだります。

そのLB1が意外と遠かった。何でも場所も例年と変更になっておりサポートの方々も混乱されたようですが、私もガーミンの距離の上方誤差が激しく全然到着しなかったので参りました。ルートも最後のエイド以降、ロードを横目に緩やかな登りの退屈なトレイルが長く続くので余計に遠く感じます。

いろんな独り言を言いながらLB1 Valgrisenche  に到着です。

セクション1の結果

オフィシャル48.55kmD+4,339D-3,877自分予想15時間
手元計測53.20km ↑D+3,912 ↓D-3,472 ↓14時間32分 順調
ちょっとイキナリ異常な誤差(前述のように距離1割 上方乖離、Dは+-ともに1割下方乖離)

3.LB1 Valgrisenche

LBの洗礼

まだそこまで疲れていないし眠くもないけど、LBの過ごし方に慣れる必要があると思い、ここでは3時間の休憩を計画。一通りのことを試そうと考えていた。

ところが、初見のLB、もう勝手が分らな過ぎて泣きそう(T_T)

ルクタスさんのサポートの方々はLB外のテントが陣地でLBの中には入れないため、スルーしてLBinしてしまった私は折角のサポートをフイにしてしまった。LBに入ってしまうと外に中々出してもらえず諦めます。何とかサポートの山元さんからツアードロップだけ受取ることは出来ました。(うまくコミュニケーション出来ない自分が問題なだけ..)

ベッド(コット)、シャワー、マッサージ等 あらゆるルールが分らない。なので勝手に空いていたコットにデポバックを置いて居場所を確保するが、何とも狭い。間隔が殆どなくコットが並べられているため、コット以外にデポバックを置く場所がない、コット上に置いたら今度は自分が横になる場所がない。縦列に並んだ自分のコットの前後は二人とも私に足を向けて寝ているのでどっちを向いても微妙。(それにしてもよく寝てられるなと感心)

仮設トイレの数も少ないし、シャワーはお湯が出ない?てどゆこと。皆さん結構寒い中で水のシャワーを浴びてます。外は雨だからシャワーはパス。テントなので水道とか無いから、トイレに行こうが手を洗うという行為ができない(ウェットティッシュで凌ぐ)。結構な人が飲料用のミネラルウォーターをペットボトルごと奪ってきて手を洗ったり歯を磨いたりしてましたね。(でもそれを全員がやったらどうなるか...)

文句ばかり並べスミマセン。でもボリュームゾーンの時間帯は完全にキャパオーバーでしたね。

諦めが肝心

衛生面が気になるのでコンタクトレンズの交換を諦める。

食事も何だか微妙(LB1の食事が微妙なのは聞いていた)。

眠くないし居心地も悪く、それでも時間だけは浪費していたので、着替えて足のケアをして予定より早く出発することに計画変更。眠くなったら途中の小屋で寝よう。

トレイルはドロドロだからシューズは履き替えずに行こうと思ったが、思いのほか小指の爪のダメージがあり、考え直して履き替えることにした。

LB1はもともとあまり期待していなかったけど、どうも今回のLB1は場所も変っており、例年対比で質が悪かった模様。寝る場所とマッサージスペースが同じ空間で照明がついたままだったりいろいろ。

大会デポバックを預けなおし、出発しようかと確認をしていたらツアー仲間のクワザネさんと会う。私よりも後にLBinされたようだが、ここまでは体調が悪かったらしい。「マッサージを受けて軽く寝たので持ち直したかかからここからですよ」と。。ここでそんな短時間でマッサージ受けて寝られるなんて凄い人だ、昨年完走されているから余裕もあるのだろう。

ツアードロップバックとドロドロシューズをサポートの森さんにお預けして出発。(ドロドロのシューズスミマセンでした(>_<))

自分がイメージするLBとはかけ離れた、まさに野戦病院とはこういうものだと思わせる場所でした。今回の教訓から、来年のLB1は最低限の対応だけして1時間以内の出発を目指そうと心に誓いました。(多分、スマホとガーミンの充電具合とのバランスになりそう。)

LB1滞在時間 2時間46分(結局計画に近い時間居てしまった(T_T)) 睡眠時間 0分

4.セクション2 Valgrisenche ⇒ Cogne 

55.45km D+4,943m D-5,098  予想21時間

セクション2のボス

  •  Col Fenetre 2,843m D+1,320
  •  Col Entrelor 3,004m D+1,313
  •  Col Loson 3,294 D+1,895 ←TOR最大のボス

Col Fenetre D+1,320

明け方5時過ぎだったと思う、LB1を出発。

LB目の前の最初の分岐をいきなり見過ごし、ロストしかけるがボラの方が全力で「違う」と教えてくれた。おじさん既に大丈夫か。〔①注意力低下⇒コースロスト

ほどなく先ほど会話したクワザネさんが追いついてきて合流。また、別のツアー仲間のクスモトさんとも合流。暫く行動を共にさせて頂く。クスモトさんはLB1ではコットの確保も出来なかったらしく、小屋があれば寝たいとのこと。クワザネさんも眠気に襲われているようで、登場し始める廃屋で寝てる人が多いという経験談の話等、会話をしながら進むと空が明るくなってきた。気が付いたら雨もだいぶ小降りだ。

各々眠気と闘いつつある中で、それぞれマイペースで進むことになる。クワザネさんとはその後も暫く行動を共にした。最初のエイドであるChalet de L'epée小屋のスープが本当に旨くて2杯もらった。ここに来てエイドのハムも好みのものが登場し始めて余計に元気になる。因みに、クスモトさんがこの小屋で寝たいと交渉されたようだが、駄目だったらしい。

Col Fenetreまで 私は元気なローテーションだったので、眠気もなく快適にたどり着く。クワザネさんはかなり眠そうな雰囲気でしたが、コルを超えたあたりから俄然覚醒した様子に。私のほうは例の小指がやはりダメ。下りのペースが明らかに違うので先に行ってもらおうと思ったが、下まで一緒にいきましょうと。恐縮しながら次のエイドであるRhemes-Notre-Dameまで。このコルも登りは突風、向こう側は平和という既にお決まりのパターン。雨はもう降っていない。

クワザネさんは10分テーブルで寝てから行くので先に行ってくださいと。後から思うとこういう短時間でもさっと寝れる術は重要だと思った。是非とも会得したい。因みにこのRhemes-Notre-Dameはこれまでのエイドと異なり立派な建物でトイレも綺麗。但し私には暑くて休憩は外で外気に触れながらさせてもらった。ここのスープも旨かった。

Col Entrelor  D+1,313

エイドを先に出発させてもらったが、気が付いたらもう後ろにクワザネさん。10分寝て元気になったようである。私はというと面白いように疲れたローテーションに入っていた。登りのペースが全然違うので付いていくことなどできず先に行ってもらう。(クワザネさんとは次のエイドEaux Roussesですれ違ったが、その後はお会いできなかった。本来の調子を取り戻し昨年を上回るペースで完走された。)

耐えるローテーションだったのでこの区間の記憶はあまりない。景色は良かったが、ずっと同じような景色を見ているので脳の反応も鈍くなる。コルに至っては登りは突風の超えると平和の繰り返しで、まさにデジャヴ。

下りも気持ち良い場所が多かったと思うが、如何せん爪が痛い。しかもだんだんと親指の爪にも被害が及んできた。

途中、トレイルから外れて草原の真ん中でたぶん立ち○○んをされていたと思われる女性ランナーに遭遇し、こっちが焦るがこちらの方は気にしないのだろう。後述するがトイレ事情は日本と大きく異なるので、もしかしたら日本人女性にとっては最大のハードルになるのかもしれない。

また、この辺りから昼間でもずっと幻覚と一緒だった。老眼でコンタクトレンズのせいかもしれない。コチラの岩は普通の色以外に、キレイな緑と茶色の岩がゴロゴロしている。3色揃ってその辺に転がっていると色んなものに見える。コレを幻覚というかは置いておいて、そこにないものを脳が勝手に想像して見ていた… 〔②幻覚

Eaux Rousses

ぐだぐだの状態で次のエイド Eaux Rousses にようやく到着。眠い。

直前でツアー仲間のウエダさん(後で大変お世話になる)に抜かれ、声を掛けて貰ったが、記憶が朦朧だ。

このエイドはルクタスさんのスペシャルサポートが受けられる楽しみにしていたエイド。サポートの森さん山元さんとの会話も落ち着く。お茶漬けとカレーを食べた気がする(曖昧)。 これから登るCol LosonはTOR最大のボスで 、しかも昨晩雪が降ったというじゃないですか。周りに聞いてみて、「要らないとは思うが念のためチェーンスパイクを持って行ったほうが良い」とアドバイスを受ける。確か丁度ツアードロップに入れていたはず...と探すがない。はて?記憶違いで大会ドロップだったか..なら仕方ないと諦める。まだ2日目なのになんて記憶が曖昧なのだろう。

実は次のLBで大会ドロップ内を探すが見つからず、訳が分からなかったのだが、DNF後にホテルでザックを片付けていたら中からチェーンスパイクが登場。入れた記憶はないのに、最初からずっとザックに入れて携帯していたようだ。本当に呆れてしまう。〔③記憶力低下

Col Loson に備えて確り補給し、クワザネさんのまねをして10分でも20分でも寝ようと思った。しかし簡単には真似はできない。このエイドはコットがあって若干名寝ることができたので思い切ってそちらを利用すべきだったが、先を急いでしまった(※)。何だかんだ小一時間滞在したろうか、相変わらず睡眠0状態だが出発した。 ※振返ると睡眠負債を増幅させたままの強行で、最悪の判断だった。次回もしここまで寝てなかったら絶対ここで寝ることにする 〔④判断力低下

Col Loson   D+1,895

出るタイミングが同じだったツアー仲間のウエダさんと共にスタート。500メートルくらい進んで山に入ろうかというあたりで、おもむろにガーミンを見ると「スマホとの接続が切れました」のメッセージ... スマホがない...アラームには気付かなかった、あぁエイドにスマホを置き忘れてきた。でも早く気付いて良かった。ウエダさんにお詫びをして先に行ってもらう。

エイドで照れながら言い訳をしてスマホを回収。森さん、山元さん他に大変心配される。まったくだ、自分でも注意力低下レベルの激しさに気が付き、気を付けようと心に誓う(誓ったところで原因を取除かないと効果ないことも後でよく分った)。〔①注意力低下⇒忘れ物〕

でもここでまた元気ローテーションがやってくる。このローテーションは今のところ順調にやってくる。やはりガシガシ登れる。直ぐにウエダさんに追いつくが、余りに調子がよかったので申し訳なかったが先に行かせてもらう。途中、野生と思われるアルプスアイベックスの群れに遭遇、カウベルなしだから野生なんだろうと思った。すぐ横を緊張しながら通過。(この後どこかでカウベル付のアイベックスも見たがどこだか覚えてない)

快調だったが、周囲が夜になり、登り始めて3時間位経過したところで元気ローテーションは終了。標高は3,000m前後だったからあと少し頑張ろうと思うがここもまた例外に漏れず突風の中を突っ込む必要がある。セクション1の3本目ほどではないがまあ寒い、流石に上下レインを着ることにした。

ずっと一人旅だったけど、ゾンビ化したので後続がそれなりについてきた。疲れたから道を譲りたくて手で合図するが、先頭の私が動くのを待って皆動かない。先行しても直ぐ止まって先に行ってくれという。確かに暗くなり、マーキングのフラッグは見えても、そこにどうやっていくのかルートが不明瞭だったから、誰かの後をいったほうが楽だ。暫く同じことの繰返しとなり、面倒くさい奴らだなと思いながらノロノロ先頭を行く。上の方を見ると建物の中で人が踊っているのが見える。やべぇ、絶対幻覚だし。 〔②幻覚

やっとのことでCol Loson通過。時刻は22:32。ここは絶対に明るいうちに通過すべき場所だと思う。教訓を活かして微修正すれば、次回は2時間30分巻きで、まだ明るい20時には通過できるような計画を組めるはずだと思う。

コルの向こう側はお約束の平和な無風状態。 上記の通り既に睡眠負債の影響は顕著だったが、このあたりから次のステージへと突入し、脳の“バグり”が加速度的に進行、いろいろな症状として顕在化してくることとなる。

コル裏側のシェルターみたいな簡易エイドで丁度ウエダさんとも再会。だけど私は下りがよちよちなので各自マイペースで。

この後、つづら折りの下りがしばらく続くのだが、脳のバグりが進行形の私にはつづらがループにしか思えず、同じところを延々とグルグル回っているようにしか思えなくなる。夢うつつ?にしては寒いし痛いし、補給すれば味覚もしっかりしている。視覚も異常とは思えない。でも脳が逝ってしまい、末端の器官は機能しても正しく情報処理が出来なくなっていたのだろう。現実だか夢だかよくわからない状態で本当に不思議な体験だった。(この後、こんなのばかりだけど...、またDNF後にStravaでGPXの軌跡をチェックしたが、当然ループなどしていない (゜.゜) ) 〔⑤脳の誤作動

気が付くと周りに人は居ない。たまに遠くにライト連なって見える。今思うときっとコースからも外れていたから誰もこないのだ。

どうやって降りてきたかは定かでないが、遠くのライトを追ってコースに復帰したのだろう。他のランナーにようやく付いて次のエイドVittorio Sella小屋に到着し心底ホッとした。このエイドは綺麗な山小屋で安心できる。今思えば何でこの小屋で寝なかったのだろう。 〔④判断力低下

先に到着してくつろいでいたウエダさんに再合流。彼に早速つづらのループ体験の話をしたが、きっと「こいつ頭おかしくなっているな」と思われたに違いない。

自分でも流石に心配だったので、次のLB2までウエダさんと行動を共にさせてもらう。おかげで何も考えずにウエダさんについていく状態で数時間下り続ける。道中のルートについては、最早不思議な光景のオンパレードだったけど、ウエダさんを信じてひたすら進んだ。個人的にはまた同じところのループを延々と繰り返しているように思える局面が多々あったが、今回は同行者に引っ張ってもらっていたので何も考えるのをやめていたと思う。今思うと、下りは遅いし頭はおかしいしで相当迷惑をかけていたと思うが、ウエダさん様様で無事にLB2に到着した。

ロードに出てから長いのと分かりづらいのと、相変わらずウエダさん任せだ。

セクション2の結果

オフィシャル55.45km
(104km)
D+4,943
(D+9282)
D-5,098
(D-8975)
自分予想 21時間予想累積 39時間
手元計測61.90km ↑
(117km)
D+4,426 ↓
(D+8348)
D-4,556 ↓
(D-8037)
21時間08分 順調累積 38時間25分 順調
カッコ内は累積。誤差傾向がハンパない。
下りがよちよちで不思議体験を沢山したが意外に計画通り。計画が相当ゆとりがあったのだろうが安心はする。

5.LB2 Cogne  

The ライフベース

これぞイメージしていたライフベース!

コレまでの睡眠負債を清算しよう。先ずはコットを確保(ここは照明が落ちているので、ベッドルームの入り口で係りの人にお願いして空きコットに案内してもらう方式)してからルクタスさんのサポートエリアへ。サポートの森さんにつづらループの話をしたら、目を見て真顔で「落ち着いて下さい!」と諭された。コレまで色んなランナーを見てきたので、一瞬で見抜かれたのだと思う。こいつ逝っちゃってるな…と。

ツアーサポートバッグを受取り、コットで身支度してシャワーを浴びる。ウエダさんは兎に角先に寝て、シャワーは起きて余裕あればとのこと。睡眠最優先は正しい判断だと思う。何故か私はシャワーを優先した。 〔④判断力低下

さあ寝るぞ。シャワーでサッパリし、コンタクトレンズを外しコットに横になって毛布を被る。例の耳栓とアイピローは見つからないけど、眠いから何とかなるさ

眠れない

時計を見ると90分経過している。でもどうしたことか横になっているだけで寝ていない。寝ていはいないが、90分横になったから身体は休めたかな…でも脳が心配。これだけ寝られる環境が整っているのに寝れないのにはマイッタ。動いていると眠いのに、横になると寝られない。交感神経が過敏になっているのだろうか。

時間との兼ね合いで、この辺りで寝るのは諦めて食事をして出発の準備をすることにした。

大会提供の食事を軽くして身支度。トイレに行き、コンタクトレンズを入れ、足のケアをして、下りが長いからシューズはZegamaに変更。膝のテーピングは面倒臭くて省略…

コット周辺に忘れ物が無いかを確認し、大会デポを預けてルクタスサポートエリアへ。サポートデポとこれまでの洗濯物をお預けして、ここでも少し食事をした。何を頂いたかあまり覚えていない。お茶漬けだったかな。ピザも勧められたが気分でなく遠慮した(cogneのピザ屋さんので旨かったらしい)

気になる程ではなかったが、腸脛とアキレス腱がたまに疼くので、鍼灸の資格を持つ山元さんから簡単なセルフマッサージの仕方を教えて貰った。小指の爪の話をしたら、寝指か聞かれ、そうだと回答。テーピングで矯正する方法があるとのことだが、次のセクションで様子を見てからにした。

そうこうしている間にウエダさんもやってきた。1時間30分位は寝たとのことだ。さすが!これも縁で次のセクション3はまたウエダさんと共にスタートすることにする。「強烈なボスを3連発でやっつけないといけない、プロフィール的に最も厳しいセクション1&2をクリアしたのだから後は余裕です!大丈夫です!」と森さん山元さんから檄を頂く。森さんからは「仮に寝れなくても横になるだけで血流も良くなり回復しますから」と盛んに励まされた。

これまでトレイルでの眠気には強い方だとは思っていたが、どうやら勘違いだったと気が付く。最初のうちは非日常感から興奮して眠くなりづらい時間がそれなりにあるが、ある程度の時間帯になれば眠いものは眠い。100mileだと長くても丸2日程度なので、その眠気にどう対処してゆくか考えれば問題ない。だけど200mileだと睡眠マネジメントは避けられない。トップ選手は分らないが、普通の人は絶対寝る必要がある。この寝るという行為が自分にはここまで難しくて、致命傷になるとは考えてもいなかった。単なる神経質なのかな。

何か足りない

ウエダさんがトイレに行っている間、出発準備を整えるが、何か違和感がある。何かが足りない... って、ポールがないじゃないですか。コットの下に置いたまま忘れてきてしまった。退出時に忘れものを確認したというのに、一体何を確認したのだろうか。脳が回復せずに、忘れ物チェックをすること自体が目的となり、実際の忘れものの有無はどっかいってしまったようだ。なんだそれと思われようが、睡眠負債の累積で不思議なことがどんどん起きるのだ。 〔①注意力低下⇒忘れ物〕

コットまで取りに帰るが、既に別の人が使用している。下を覗くが見当たらない。係りの方にポールの忘れ物がないか確認するが特に聞いてないと。さてどうしたものかと思ったら、なんてことはない場所を間違えていた。ここでも場所を間違える自分にがっかりする。 〔③記憶力低下

何とかポールを回収してサポートエリアに戻る。ウエダさんを待たせてしまったようだ。申し訳ない (ーー;)

LB2滞在時間 3時間31分 睡眠時間0分(累計睡眠時間0分)

〈レース編〉episode1~レーススタート』 は以上となります。

旅は『〈レース編〉episode2~did not finish』へと続きます