2019 分水嶺トレイル Cコース 「チームナカノ」《中野洋平》

・分水嶺トレイルとは

~秩父多摩甲斐国立公園の4つの百名山(雲取・甲武信・金峰・瑞牆)と4つの分水嶺(多摩川・荒川・富士川・千曲川)を3日以内で踏破し、南牧村の獅子岩までたどり着く、登山道ほぼ100%、ファストパッキングスタイルの、タフで楽しい縦走大会です~(分水嶺トレイルHPより引用)

・「チームナカノ」

中野洋平

『チームナカノ』左から中野洋平・石毛巧・馬場誠

チームナカノとは中野洋平・馬場誠・石毛巧の3名で構成された、分水嶺トレイルレース出場のためだけに結成されたチームです。過去の実績として、2014年(初出場)Aコース・チーム部門:優勝。2015年Bコース・チーム部門:2位。2016年不参加。2017年Bコース、大弛峠にてリタイヤ。2018年Bコース・チーム部門:優勝。

・分水嶺トレイルCコースについて

2019分水嶺トレイルは、通常コースのA・Bコースに加え、Cコースが開催された。Aコース・Bコースは例年通り、ソロ部門・チーム部門でレースを開催。Cコースに関しては、「地図読み区間(瑞牆山~東尾根線、小川山~信州峠)の距離がA・Bよりも長く、ルートも不明瞭」なため、チーム部門のみの開催となった。

Cコース出場条件として「過去の分水嶺トレイルの実績」「縦走の経験値」「地図読み区間の事前試走」が条件とされていたが、明文化されたものはなく、「大会概要」にも載っていないコースであった。Cコース希望者に事前に言い渡されていたのは「Cコースを希望しても、実力が見合わないと事務局側が判断した場合、Bコース・チーム部門での出場となる」という事だけであった。

距離84km /累積標高8000m 制限時間:53時間30分

距離120km/累積標高差12000m 制限時間:64時間30分

・コース概要
ルート:鳩ノ巣の一角~雲取CP1~富士見平CP4~小川山~信州峠~獅子岩
距離:105㎞
制限時間:54時間30分
累積標高:11000m

・目標&プラン(3パターン設定)
理想
CP1 8:00雲取山荘 (13日18:00)
CP2 16:00雁坂峠 (14日2:00)
CP3 25:00大弛峠 (14日11:00)
CP4 29:00富士見小屋 (14日15:00)
ゴール 42:00平沢峠 (15日4:00)

最速
CP1 7:00雲取山荘 (13日17:00)
CP2 14:30雁坂峠 (13日23:30)
CP3 23:30大弛峠 (14日9:30)
CP4 27:30富士見小屋 (14日13:30)
ゴール 40:00平沢峠 (15日1:00)

最低
CP1 9:00雲取山荘 (13日19:00)
CP2 18:00雁坂峠 (14日4:00)
CP3 29:00大弛峠 (14日15:00)
CP4 33:00富士見小屋 (14日20:00)
ゴール 50:00平沢峠 (15日13:00)

・トレーニング内容
分水嶺トレイルに向けて、特別にトレーニングはしておらず、毎月300㎞走と週末に(…と言っても月1回程度)青梅近郊のトレイル30㎞程度。6月に義務図けられていた地図読み区間の試走(瑞牆山荘~富士見平小屋~瑞牆山~東尾根線~小川山~信州峠~瑞牆山荘)

・スタート前
当日は荷物チェックのスタッフを頼まれていたので、8時7分鳩ノ巣駅着の電車で現地入り。どんなチームが、どれだけ来るのかも知らないままだった。現地に到着し、スタートリストを見せてもらう。そこで初めてⅭコース出場チーム数を知ることとなる。Cコース出場5チーム(3人×5チーム=15人)!分水嶺トレイル全体で250人程度出場していると聞いていたので、少ない…(笑)。しかし、よくよく名前を見ると、知っている人ばかり。装備チェックも終わり、レース前に全員で集合写真。あとはスタートを待つのみ。スタート前の気温は20度を少し越え、天候は曇りであった。

・レース レポ
スタート~CP1雲取山荘

7月13日午前10時JR鳩ノ巣駅スタート。鳩ノ巣駅からCP1の雲取山荘を目指す。川苔山は初めて行くルート、急な勾配や岩場も多く一気に標高を上げる。スタート直後は蒸し暑く感じていたが、川苔山を越え、雲取山の稜線に入るころには標高も1500m近くまで登っていたこともあり涼しくなっていた。

蕎麦粒山からはBコースと同じコースで雲取山荘まで辿る。この区間は水場が少ないため、スタート時には1.8L水を持っていた。雲取山荘までのコース上、水場は一杯水と酉谷小屋のみ。しかも、一杯水は年によっては水が出ていない時がある。そして、一杯水に到着時に500mlを切っていた。今年の一杯水は豊富に水が出ており、水が十分に補給できたので、途中の酉谷小屋へは寄らずにそのまま雲取山荘を目指す作戦に切り替えた。

ここからがアップダウンも細かくあり、何度来ても長く感じる長沢山や芋木ノドッケなど雲取山荘手前での難関。進み続けていくと、Bコースの最後尾選手、スイーパーをパス。Bコースのチームも2チームほどパス。スタートして6時間52分雲取山荘へ到着。Bコースの選手も多く休んでいる。カップ麺・コーラを購入、水を補給し、17時10分に出発。5チーム中1位でCP1雲取山荘を通過。

CP1雲取山荘~CP2雁坂小屋
雲取山へは急登を登る。ここからはAコースも合流。雲取山、飛龍山(巻き道)を順調に通過するころにはAコースの選手もチラホラとパスするようになってきた。そんな中、シングルトラックの登山道で、何名かがビバークしている。よく見ると選手が横たわっている。話を聴くと滑落し、救出された直後だった。顔は見えなかったが、右足の膝から下を固定されており動けない状態。本部には連絡済みであったことと、応急処置は終わりレスキューを待っている段階であったため我々は先に進むことにした。山では常に危険と隣り合わせ、我々も気を引き締め直して、先に進んだ。あとで聞いた話だが、これが分水嶺トレイル始まって初のレスキュー隊の要請だったようだ。

将監小屋に着く手前で暗くなり、雨も降りだす。小屋へは13日20時39分に到着。簡単に補給と水を補充し、20時54分に出発。順位は変わらず1位をキープ。多摩川の源流である水干を通過、この頃よりだんだんと眠気が襲ってくる。A・Bコースの選手をパスしつつ、前にあるライトの光を追うことに集中し、眠気をごまかしながら進む。雁坂到着、ここからが分水嶺トレイルの本番と言っても過言ではなく、標高も常時2000mの領域に突入する。そんな状況はよそに、雨がだんだんと強くなり、気温も徐々に下がりだす。眠いからと言って止まってしまっては危ない状況になりつつあった。

水晶山を登りきり雁坂峠へ、日付は変わり14日1時15分にCP2雁坂峠到着。到着時の順位は変わらず1位。ここで我々は1時間ビバークすることにした。しかし、キャンプ場はA・Bの選手で足の踏み場もないほど、スタッフに案内されたのは背丈ほどの草が覆いしげる勾配地。「こんなところでシェルター張れるの!?」と思いつつも、大雨の中ビバーク。1時間後に起床。しかし、寒さで体に力が入らない。チームメンバー2人も同じような状況。だが自分が一番ひどく寒さにやられていた。スタート手続きをし、そこで2位のチームが雁坂小屋での休憩を短時間で切り上げ、先に進んでいた。

そんなことはさて置き、この状況だと“リタイヤ”も考えなければいけない程の状況であった。何とか小屋の売店(レースのため特別に開店)で、カップラーメンを食べ温まり、お湯を飲み、食べながら雁坂小屋を出発。とにかく動いて温まる作戦。出発直前に3位のチームも雁坂小屋に到着。ほぼ同時に出発。しかし、順位などどうでもよくなっていた、とにかく生きて完走することに目標を切り替えていた。この雁坂小屋では多くの選手がリタイヤをしたとのことだった。あの状況であれば、それも賢明な判断だと思える。生きてこそのレース、生きてこその山。

CP2雁坂小屋~CP3大弛峠
懸命に体を動かしつつ、体温を上げる。眠気もあったが止まってしまっては、また体温が下がり危険な状況になる。とにかく夜が明けるまでは動き続けた。ここからCP4の富士見小屋までは、常時標高2000mの世界。この頃から雨は小降りになったが、濡れた衣類はどんどんと体温を奪っていく。東破風山・破風山を越え破風山避難小屋に到着。今年からは避難小屋の使用は禁止。中で休むこともできない。外のベンチで休憩していると再び3位のチームにパスされる。

その後、甲武信岳の登りに入り、山頂手前にある甲武小屋で休憩し、うどんを補給。とにかく3人とも胃腸が良く動き常に食べられていた。30分ほど休憩し、出発。出発時、再び2位へ上昇。甲武信岳を登り、分水嶺トレイル中盤の山場、国師ヶ岳へ。“国師のタル”までが同じ景色が続き異様に長く感じる(分水嶺トレイルの時は毎回)。長く、同じような景色、細かなアップダウン…集中力が切れてくる…この頃には雨も止んでいたので、国師のタルへ到着する前に道端で30分仮眠(…というか行き倒れに近い)。

仮眠後は少し復活し、国師のタル、国師ヶ岳へ!国師ヶ岳の登りがとてつもなくキツイ…ここも何度も分水嶺トレイルで通っているのに、毎回キツイ!このレースの中で個人的には一番きつく感じる。長い長い国師ヶ岳の登りを越え、CP3大弛峠へ14日12時35分到着。小屋でカレーを食べ体力回復。ここまででCコース5チーム中2チームがリタイヤとの情報が入る。30分ほど休憩し、13時5分に出発。

1位との差、1時間35分。2位との差16分。

CP3大弛峠~CP4富士見平小屋
大弛峠を出発し、2位のチームが仮眠をとっている横をパス「みんな眠いんだな…と」。ここでは、大弛峠で休憩した甲斐もあり、金峰山は難なくパス。足裏の痛みは感じつつもスムーズにトラブルなく富士見平小屋へ17時5分に到着。3位のチームも16分後に到着。1位のチームは30分前に富士見平小屋を出発していた。このまま小屋で休憩せずに追えば逆転も!?と思ったが、食事休憩と30分の仮眠をとることにした。なんといっても、次の区間は道なき道を行く地図読み区間。しかも、時間的に夜間になってしまう。夜間走行を回避するか、このまま突入するかもチームの論点になったが、結論は「行けるところまで行く」という事になった。

CP1雲取山荘~CP4富士見平小屋

CP4富士見平小屋~Finish獅子岩
18時17分2位で富士見平小屋を出発。瑞牆山への登りの途中に日没し、頂上へ。ここからはCコースのみのルート。頂上のすぐ下を通り、不明瞭な東尾根線へ突入(写真は6月の試走時、本番は夜間走行で真っ暗)。ライトの明かりのみを頼りに、マーカーを探しつつ進む。

しばらくすると後ろからすごい勢いで3位のチームに抜かれる。「終わった」と思った…あまりのスピードの違いに、チーム全員「完走して3位でいいか!」と気持ちを切り替える。試走できていたとはいえ、夜間走行外なると全く違う世界。なんとか小川山の登山道に合流。そこから小川山までを目指すがまたしても眠気がMAXに…ここは後ろから選手が来ないことをいいことに登山道に3人で仮眠(笑)。20分ほど仮眠し、再出発。小川山山頂到着。

時刻は0時を越え3日目の15日となっていた。

小川山山頂に到着しても試練は続く、葺ダワまでは見通しも悪く、踏み跡も少ないルートを進む。地図とコンパスを頼りに、稜線と県境尾根というヒントだけで真っ暗中、ここも当然3人のライトの光のみで進む。時にはバキバキと朽ちた木をなぎ倒しながら、時には行く手を倒木に遮られつつ、目印の松ネッコを目指す。

知らない間にルートを外れることもしばしば…行っては戻り、右往左往しながら進んでいく中、突如暗闇の中にシェルターが!…一般の登山客がこのルートを使うのは考えられない。2位のチームだった。そっとパスし、そこから30分ほど進むと。再びシェルターが!「これはもしや!」と3人で顔を合わせる。なんと1位のチームもこの区間でビバークしていた。夜間走行は無理と判断したのか…何はともあれ、走力だけでは完全に負けていたが、ここで再びトップに躍り出る。3人のテンションはMAX眠気も忘れ突き進む。夜が明け、他のチームも活動を開始しているはず!と思うと、急に「追われる立場」でのプレッシャーがのしかかるのと、ここまで来たら勝ちたい!という欲が出てきた。明るくなり、葺ダワ到着。

ここからは再びA・Bコースと合流。足裏はふやけ、マメも出来、痛さもあったが、最後の横尾山-飯盛山を休まずに走り抜け、15日10時46分にトップでゴール。タイムは48時間46分。2位との差は僅か40分ほどであった。やはり、夜間の東尾根線、小川山から信州峠で時間がかかってしまい、予想よりも大幅に遅れた。しかし、苦戦したのはCコースを完走した3チームともにいえることだった。

 


・まとめ
分水嶺トレイルは、あくまでも主催者の意向は通常のトレイルランニング大会とは異なり、ファストパッキングスタイルの縦走山岳レース。元々は「ミニTJAR」という位置づけで始まったこの大会。年々、参加者数も増え、「分水嶺トレイル」に出場そのものに価値が出てきている印象がある。我々は今回で5度目の挑戦であった。どの大会も思い出深く、必ずドラマがあった。今回はCコースの参加数が少ないという事で「勝負」を意識したレース展開と、初めて行くコースという事もあり楽しみな面もあった。「チームナカノ」は過去の実績を含めると分水嶺トレイルA・B・Cコース全てにおいてチーム部門で優勝経験があるチームになった。今回は、3日間天候は曇りか雨であり気温も低い日が続いたこともあり、完走率は低い様子。個々の選手にとって色々と感じることや学ぶことの多い大会になったと思う。自分たちにとっても、学びの多い大会だった。

・必携品
行動食・非常食・ツエルト(もしくはシェルター)・コンパス・地図・ヘッドランプ・予備電池・防寒着・雨具・エマージェンシーシート・携帯電話(docomo)・充電器・水・熊鈴・ホイッスル・保険証・非伸縮性テーピングテープ(38mm1巻)・三角巾・お金・環付きカラビナ2枚・カラビナ2枚・ナイロン製ソウンスリング180cm×2・ソウンスリング60cm×2・補助ロープ1本(7~8mm×15~20m)・虫除けスプレー・傷口洗浄用の水350ml・ボトルキャップ1個(中心に水の出る穴を開ける)

・装備
バックパック:blooper backpacks/MIYAMA
シューズ:Colombia Montrail/Mountain Masochist Ⅳ
レインウェア:mont-bell/トレントフライヤー
シャツ:Roll Out/走らんか・休まんかT-shirt
インナー:finetrack/SKIN MESH
パンツ:mont-bell/トレールショーツ
ソックス:R×L/WILD PAPER JP-1000
ライト:PETZL/NAO

・その他
火器:プリムスP115
コッヘル:エバニュー/ウルトラライト
マット:山と道 UL Pad15s
ストック:ブラックダイヤモンド ディスタンスカーボンZ110㎝
シュラフ:モンベルダウンハガー900#5
シュラフカバー:ブリーズドライテック U.L.スリーピングバッグカバー

・補給食
ミックスナッツ750g⇒すべて消費
バナナチップス300g⇒すべて消費
羊羹:3本⇒2本消費
カロリーメイト:5袋(10本)⇒4袋消費
カレーメシ:2個⇒1個消費

・山小屋での食事
雲取山荘:カップラーメン1個
雁坂小屋:カップラーメン1個
甲武信小屋:うどん1杯
大弛峠キャンプ場:カレー1杯

プロフィール

朝長拓也
朝長拓也
トモナガと読みます。
私が初めて山を走ったのはのは2012。山を駆け下りる疾走感、自然との一体感、こんな楽しいスポーツがあるのかと衝撃を受けました。
今でもその時の感動を覚えています。

私は特別速い訳ではないし、まだ100mileを走ったこともないし(2018年ようやく100マイル走りました!)、大会にたくさん出てきた訳ではありません。
でもトレイルを走るのは大好きです。
トレイルを走っているときに自然と笑顔になったり、訳もなく涙があふれてきたり。
うまく表現できないけど自分が解放されてく様な感覚が最高に気持ちいいのです。

人それぞれ感じる事は違うと思いますが、最高の時間をみんなで共有できたらいいなと思っています。

ランナー、トレイルランナーが気軽に集まれるお店にしたいと思っています!
一緒に走りましょう!よろしくお願いします!!