Formosa Trail 75K 関門ファイト《辻 郷》
立川が世界に誇るトレイルランニングショップ Trippers。そのオフィシャルなチームが、Team Trippers、略してチートリです。
コンセプトとしては、バチバチに練習しよう!というものではなく、みんなで山を楽しもうというもの。
基本的には、月に一度、高尾からアルプスまで、いろいろなところに「遊びに行く」スタイルです。
年齢も走力も様々ですが、学生時代に戻ったような、とても居心地のよいチームだと思います。
そのチートリメンバー有志8人で、初の海外遠征に行ってきました。狙うは台湾、フォルモサトレイルです。
このレース、カテゴリーは、10K、18K、40K、75K、100Kの5つ。
エントリー人数からすると、18Kがダントツの一番人気のようでした。通常人の感覚からすれば、そりゃそうだろうと納得の選択。
チートリからは、
- 40K:MRT、MKT、もとぴー、ほっさん(残念ながらDNS)
- 75K:私、アキラさん、ノゾさん
- 100K:レオレオ
が参加です。
せっかくの海外だから余力を残して観光も楽しみたい勢は短めの距離を、せっかくの海外だからたくさん走りたい勢は長めの距離をチョイスしました。
そして、40Kの部。
なんと、チートリコーチの松井夫妻、MRT(マツイ•リョージ•タロー)とMKT(ミキティ)が、男女アベック優勝を果たしました!!
アベック優勝ってw
インパクト的には、もうこれ以上のものは何もないのですが、ノーマルなランナーに向けて、75K関門ファイターの戦い(主に、精神的な)の模様をお届けします。
初めてのフォルモサ、初めての海外レースに参戦される方の参考になれば。
※レースを追体験してもらえるよう、かなり長めに書いています。興味のある項目だけでも拾い読みしてみてください。
なお、自分は速いんだぜーって方は、チートリの若頭ことアキラさんが「激走フォルモサ75!(仮)」の様子を書いているので、そちらを参考にしてみてください。コースの路面状況などレース攻略に役立つ情報が満載ですよ。
https://trippers-wtrc.com/archives_runnersblog/21409
【本稿執筆者について】
- ITJ、ハセツネは完走経験あり。100K以上は3度失敗。
- 身体が重くて登りはツライ。キライ。
- というより、そもそも走るという行為が好きかどうか疑わしい。
- お腹を冷やしてトラブルになりがち。
- 滝汗をかいて、脱水しがち。
- あらゆる部位を攣りがち。
- いくら寒くても平気、豪雨もへっちゃら。でも、ちょっとでも暑いとやばい。
- 安全マージンをかなりとるので、早いタイミングでやめがち。
【フォルモサ総括】
- 開催日:11月25日(土)
- 距離:76.5K(手元では80K越え)
- 獲得標高:4100D
- タイム:18時間24分23秒(制限20時間)
(いいところ)
- 台湾の人はとっても親切。街の人もレーススタッフも、日本語で話そうとしてくれたり、英語もすごく簡単な単語を使って、わかるまで何度も伝えようとしてくれたりします。言葉の心配がほぼいらないので、初海外レースにもってこい。
- エイドが充実!バナナやオレンジといった定番のフルーツに加え、名産のパイナップルも食べ放題。さらに、あったかい丼物や雑炊、ホットコーヒーなんかもいただけます。
- ゴール後、ビール飲み放題!
- アフターパーティ、ビール飲み放題 & 豚の丸焼き食べ放題!!
- ランナー同士の謎の連帯感。国籍関係なく、加油!がんばれ!Good luck!が飛び交います。日本人同士なら、もうだいたい友だち。
※ちなみに、この「加油」、がんばれという意味で、ジャーヨウと発音します。話者によっては、ジャゥオと、なんとなくチャオが濁った感じに聞こえるため、はじめは、なんで台湾でイタリア語の挨拶されるんだろ?とひとり首を傾げておりました。
(ハードなところ)
- トレイル率がかなり低い。体感で50%程度。
- 眺望ほぼなし。一部とても見晴らしのいい箇所もありますが。ただし、通過時間によって異なる可能性あり。
- 75Kのコース設定はエグい。40K以降はロードでむりやり延ばした印象です。楽しむなら40K推奨、苦しみたいなら長い方へ。
- コースがわかりづらい。マーカーが反射しない素材だったりして、夜間パートはロストとの戦い。時計にコースを入れていないとロスト必至。
- コース上、エイド以外にはスタッフがいません。ただ、山の遊びだと思えば、こういうのが普通で、むしろ我々はヒロキやツヨシに甘やかされ過ぎかも?
いいところ、ハードなところ含めて、トータルではものすごく楽しい大会です。
【準備編】
フォルモサトレイルは台湾の中部西側、埔里/プーリーという都市で開催されます。フォルモサという街でやるんじゃないんです。
実はフォルモサとは、美しいという意味のポルトガル語で、台湾そのものを指します。
むかし台湾を訪れたポルトガル人が、あまりにも綺麗な島だったので、「美しい!(フォルモサ!)」と言ったのが由来だとか。日本をジパング→ジャパンと呼ぶようなもんでしょうか。そういえば、ジパング呼びしたマルコ•ポーロもポルトガル人だ。
で、この埔里ですが、アクセスがわるい。
自力で行くのは結構大変なので、大会が用意したシャトルバスを使う必要があります。所要3-4時間。東京-台北よりかかりますね。
そしてこのバス、予約しないと大変な目に遭います。利用予定の場合はエントリー時に必ずあわせておさえてください。
今回、我々はバス移動日の前日に台湾入りして、まる一日台北観光をするスケジュールを組みました。レースの2日前に台北に入ったことになります。
台湾は近いので、日程を詰めればあまり休みを取らなくて済みますが、個人的には余裕を持った日程で観光も楽しむのがおすすめです。
コース上で聞いた話では、40K以下は当日受付もあったようですが、75Kと100Kのスタートが4:00、40Kでも5:30なので、できれば前日に受付を済ませた方がいいでしょう。
そこから逆算して、レース前日朝、台北9:30発のシャトルバスに乗り込みました。ちょっと早過ぎる気もしますが仕方ありません。
バス便が少なく、この次は16:00だったかな?
これだと、受付をして宿に入って準備して夕飯を食べると、かなりいい時間。睡眠時間が削られるおそれがありました。
埔里では、受付を済ませた後、ローカルな食堂や甘味処を堪能し、宿でワイワイやったのち、21:00頃就寝。
宿は、みんなでゲストハウスみたいなところを一棟借りて過ごしました。これがまた、実に楽しい上に、ひとり一泊4000円程度と超お得。
大会が斡旋していた宿は3万くらいしたそうなので、自力で手配した方がいいと思います。
と偉そうに言いつつ、我々の場合、MRTにおんぶに抱っこでしたけども。
ちなみに、台湾の物価は日本とほぼ同じくらいで割安感はありません(2023年11月末現在)。昔と同じ感覚で行くとびっくりするのでご注意を。
大会当日、朝は1:30起床です。
ワセリンを塗り塗りしたり、テーピングを貼り貼りしたりして、2:30に宿を出ました。
さっむっ!
レース当日だけたまたまだったみたいですが、熱帯とは思えない寒さで、みんなしてシェルを羽織ります。
私にとって暑いのは不安要素なので、寒いのは助かります、助かりますがそれにしたって寒い。
埔里市街から大会会場まで4Kほど。歩いて移動できない距離ではないですが、ここもシャトルバスがあるので、予約を忘れないようにしましょう。
なお、台北からのバスも埔里市街からのバスも、人数確認等はザルです。
受付済みだろうがなんだろうが、気を抜くと簡単に置いていかれますので、気をつけて。
高速のSA休憩で、置いていかれそうになったMRTとMKTがダッシュでバスに戻ってくるという一幕もありました。
そんなバス (デコトラ風)が定刻3:00に出発し、10分ほどで会場に到着です。4:00のスタートまで、もう1時間を切っています。
会場には様々な国のランナーが集まっていましたが、若者の多さが目につきます。
特に、若い女の子がとても多い。なんだかキラキラしていて、夜明け前なのにやけに眩しい。
トレランって、もっとシワシワしたスポーツではなかったか。
全員が40代のチートリ長距離おっさん4人組は、隅っこの方でちいちゃくなって、スタート時間を待ちました。
スタート10分前、ゲート前に移動せよとのアナウンス。これも、台湾語、英語に加え、日本語でも案内してくれます。
至れり尽くせり。
【レース編】
さて、ここからはレースの模様をお届けします。
《スタート〜CPA1》
レース10分前、ゲートに移動すると、スタッフから注意事項の説明と楽しんできて的な激励、ゲート前での集合写真の撮影がありました。
ここで、一緒にいた町田のタイソンことノゾさんが、
「せっかくだから前行こうぜ!せっかくだから前行こうぜ!」
と楽しそうに連呼して、最前列に躍り出ます。「町田の」とはいえ、さすがはタイソンという見事なステップイン。
そして、悠々とそれに続く若頭。風格が違う。
いやいや、待て待て。
いくら海外で浮かれているからとはいえ、そこは上田瑠偉クラスの選手のみが陣取ることを許された聖域。
一般人がそんなところにいたら、死あるのみ。
唯一100Kにエントリーしたレオレオと2人、生き残りをかけそろりそろりと後方に下がります。
しかし、時すでに遅し。
下がりきれずにスタートを迎えてしまいました。
コース図を見てもらうとわかりますが、このコース、はじめの10Kで1100mアップという鬼設定です。しかも、登り始めまで3Kほど市街地を走るので、実質7Kで1100アップのほんと鬼。
登山口の取り付きまでに、極力後方に下がらなければなりません。しからずんば、死。
スタート直後に特有のテンションで、みんなバカみたいに飛ばしています。しかし、それ以上にバカみたいに前からスタートしてしまったため、結局、バカっぱやな登りに巻き込まれてしまいました。
これがあと7K続く、だと?
しばらくは後ろに突っつかれながらも頑張って登っていましたが、明らかにオーバーペースで、早くも滝汗です。
その上、気温が低いので、あっという間にお腹が冷え、アイスノンみたいにキンキンになってしまいました。ひとまず手を当てて温めます。まさに手当て。
しかし、心拍は160から下に落ちず、さらにお腹の冷えで身体が動かなくなってきました。
5Kも進んでいない最序盤にしてこの状況は、相当やばい。
皆さんすでにお気づきかと思いますが、私は決して速いランナーではありません。
トレイルランナーの皮を被ったゆるふわハイカーに過ぎませんので、実はランナーですらありません。
10月に走ったハセツネのタイムと見比べると、正直言ってこのフォルモサ75K、大きなトラブルがないという前提で、制限時間ギリギリで帰って来れるかどうかというところ。
かなり楽観的に見積もっても、そういう戦いです。
それが、70K残してこれです。
しかし、頭を抱えていても距離は減らないので、ちょっと進んでは端っこに避け、ちょっと進んでは端っこに避けを繰り返します。
いちおう、まだ始まったばっかりなので、補給をするフリや、荷物を出すフリをして、コイツ大丈夫か?という、世間の冷たい目を巧みにかわし続けます。
すると、何やら前の方で、「トーォ⤵︎」、「トーォ⤵︎」と伝言ゲームが始まりました。
何のことかわからず黙っている私を飛ばして、ゲームは後ろに続いていきます。
どうも、雰囲気的には「気をつけろ」という合図のようです。
何度も繰り返すうちに、倒木があるところで伝言が来ることに気がつきました。
「あれ、これって『倒』か?」
ところが、倒木を跨ぎ越すときにはゲームは始まりません。
「ああ、なるほど。『頭』だわ」
頭に気をつけてという意味のトオ。
人は、本来こうやって言葉を覚えるんですね、勉強になりました。
理解できてからは伝言ゲームに混ぜてもらいます。
台湾華語は、中国語(北京語や広東語)と同じく発音が決定的に重要な言語らしいので、私のトオは、十か倒か等か島か、あるいは何の意味もないトオに聞こえていたかもしれませんが、まあゲームは続いたので、汲み取ってくれたんでしょう。
しかし、そんな伝言ゲームを嗜んでみたところで、先は全く見えません。これまだ一本目の登りですよ?
すでに登りの足を使い果たし、大腿四頭筋と内転筋が攣り寸です。
トボトボと進むうちに、いつの間にか人がまばらになっており、かなり最後尾に接近している気配がします。いよいよ関門ファイトらしくなってきました。
改めて、この段階でどれくらいヤバいかをお伝えしておくと、
MTBを担いだお兄さんに抜かれるくらいのヤバさです。
このお兄さん、道中何度もすれ違い、
「ユーアークレイジーw」
「サンキュー、グットラック!」
と言葉を交わすことになるんですが、ちゃんとバイクにもゼッケンがついていて、正式に出場している選手のようでした。
他にバイクを担いだ選手はいなかったので、特例なのか何なのかわかりませんが、同じ時間にスタートしたということは75Kか100K。完全な変態です。
それはさておき、1100mを半死半生で登り切り、頂上からちょいくだってようやくCPA1(チェックポイントAの1回目。CPAとCPBは2回ずつ通過します)に到着です。
あのポスターに衝撃の文字列
この時点で7:30手前。
13キロ進むのに3時間半近くかかってしまった計算になります。
CPAにいた猫を撫でるなどしつつ癒されて、さて行くかとエイドを出ようとしたところで、衝撃の事実に気がついてしまいました。
壁に貼ってあるポスターに残酷な文字列が踊っているではないですか。
CPA2/10:15
そう。関門タイムです。
制限20時間は気にしていましたが、区間ごとの関門タイムは全く意識していませんでした。
ここまで13Kで3時間半近く。このコース一番のおばかさんをやっつけてきたとはいえ、出だし3Kはロードをキロ6より速いスピードで走っています。
一方で、CPA2まで10Kで残り3時間を切っている。
こいつは、相当やべえ。
フォルモサ、23Kで終了のお知らせがチラつき始めました。
1100m登り切った時点では、なんで75Kにしたのか、40Kでも長いわ、10Kにすればよかったなどと悪態をつきながら進んでいましたが、実際にDNFを目の前にすると、海外まできて23Kでは終われないという思いがふつふつと湧き上がります。
幸い日が昇り、少しずつ暖かくなってきています。暑くなると、それはそれで別の問題が生じますが、いまはお日様がありがたい。
お腹の冷えもよくなってきて、平地と下りなら走れます。
とりあえず10K、できる限り行ってみましょう。
《CPA1〜CPA2》
8:00ころ、折り返してきた若頭とすれ違います。その30分後くらいに、ノゾさんとレオレオと立て続けにエールの交換。
かなりお見舞いされているように見えたのでしょう。みんな、がんばれがんばれと鼓舞してくれました。
元気が出ます。ありがとう。
相変わらず登りはからっきしですが、時計とにらめっこをしながら何とか進み続けます。
折り返し地点、ここでは非常にきれいな景色が見れました。ワンダフル!
しかし、時間に限りがありますゆえ、急いで帰らねばなりません。
自分が折り返してみると、後ろにいるランナーの様子がよくわかります。みんなそれぞれお見舞いされながらも、頑張って進んでいました。
しかしまあ、多く見積もっても、後ろには15人くらいしかいませんね。
だが、それがいい。
基本的に、私は単独走を好みます。
前に人がいると無駄に追いかけてしまい、後ろに人がいると、プレッシャーに負けて暴走し出すか、さもなくば譲りたくてソワソワするからです。
一人だと、自分の走りだけに集中できます。そして、この状態になると、脳内でMKTとの対話が始まるんです。
今までのレッスンでもらったアドバイスや注意点を無視したような走り方、足の置き方をすると、脳内MKTから即座に叱責が飛んでさきます。
「つーじーはさあ、なんでそこを大股で上がるわけ?」
すいません!
「今のそこさあ、なんか急ぐ理由あったかな?」
ごめんなさい、気をつけます!
だいたい、これをレース中ずっとやっています。
今回でいうと、一発目の登りが終わってからゴールまで15時間ばかし、ずっとMKTに謝りっぱなしでした。
ただし、リアルMKTはもっとずっと優しいですよ、念のため。
すんませんすんませんと脳内MKTに謝りながらCPA2に戻ってきたのが、9:15ころ。
生き残ったー。
猫もいなくなっていたので、早々にエイドを後にします。
私はエイドの滞在は比較的短い方だと思います。飲み食いはしますが、座って休むことはしません。先に進みたくなくなっちゃうからね。
さて、次のCPB1の関門は14:30。距離は12キロほどで、しかも大きい登りがない区間。したがって、ここは楽勝のはず。でした。
《CPA2〜CPB1》
CPA2に入った直後から気になっていたのですが、なんか異様に人がいる。
ちょうど、40Kのボリュームゾーンとぶつかってしまったようです。
それだけなら、えっちらおっちらフレッシュな彼らについていけばよいだけだったんですが、トンデモ軍団とかち合ってしまいました。
露出高めの女子2人をキャッキャしながら取り囲む男子4人と、数あわせで呼ばれたのであろう(妄想)控えめ女子2人の、あわせて8人組。
そもそも、8人もいたら走力が揃うわけがない。でも、8人一組で走る。
ドスっ。ドスっ。
フラットになるとかなり無理な追い越しをかけてきます。でも、映えスポットごとにみんなで止まってウェーイと写真を撮る。
ガツっ、ガツっ。ボスっ。
撮影タイムの間に抜くと、またフラットな場所で無理矢理抜き返してくる。
いまのシングルトラックで、どうして前に出れると思ったの。しかも、8人も。
さらに、いわゆるテクニカルな下りを苦手とするメンバーがいて、リーダーくんが仲間がバラけないようにという迷惑な優しさを発揮し、その苦手なメンバーを先頭に置き続ける結果、下りが大渋滞しています。
でも、世界の中心はワタシたちだから、全く気にしない(パーティのリーダーとしては立派。だが、広い世界を見ろ)。
ええ、ええ、登れなくなった私が悪いですよ。登りで引き離せばこんなことにはならない。
でもね、それでもこちとら時間との戦いなんです。なんとか先に行かせちゃあ、おくれませんか。
頑張って稼いだ貯金が溶ける。。
もはや、彼女らのキャッキャする笑い声にすらダメージを受ける精神状態。
もうわかった、わかったから。
私が悪かった。だから、頼むから飲み屋でやって。
結局、CPBの直前までご一緒してしまいました。
40K組はCPBで折り返し、こちらはもっと奥まで進むので、もう会うことはないでしょう。ほんと疲れた。。
エイドに入ったのは12:30くらい。
もう少し稼げたはずだけど、それを言っても仕方がない。切り替え切り替え。
CPBには、白いご飯と、ご飯に乗っける用のルーロー飯風味のお惣菜がたくさん、他に雑炊なんかもありました。さすがに豚角煮の用意はありませんが。
マイカップで即席ヘルシーどんぶりを作って、いただきます。
うますぎる。泣ける。いや、泣いた。
どんぶりをむしゃむしゃしていると、俄かにエイドが盛り上がりをみせました。
箸を止め、何かしらと様子を伺うと、75Kのトップ選手が戻ってきたとのこと。
サラサラ長髪の仙人のような風貌で、全く疲れた様子はありません。
CPB2は、遥か彼方の63K地点。ここから30Kも先です。仙人まじかよ。
彼はあと13Kでゴール、こちらは43Kでゴールという寸法ですね。
《CPB1〜CPC》
先に進みながら、とりあえずCPB1も生き残ったよとチートリメンバーに連絡を入れます。
すると、なんということでしょう!
「MRTとMKT、ふたりとも優勝!」
の話題で盛り上がっているではないですか。
やりおった。
たしかに出発前から、
「海外レースで、夫婦アベック優勝とかしたら面白いんじゃないー?」
なんて話はしてました。してましたが、まさか本当にやるとは。
実は、この優勝が私を退っ引きならない状況に追い込んだんです。
行きの羽田空港ロビーにて。
「そいえばつーじー、今回のレースのブログ書いてよ」とMKT。
「ん、いーよ」と私。
ブログというのは、いま皆さんが読んでいるこれのことですね。
おわかりいただけますでしょうか。
万が一私がリタイヤした場合、このブログは、
「フォルモサトレイル行ってきました!チームのコーチが夫婦でアベック優勝しました!ただ、ブログを書いている私はチームでただ一人DNFしました!」
という、全く意味のわからない代物に仕上がってしまうんです。
それだけは避けなければならない。全力で。
もちろん、
海外まできてリタイヤするのはイヤとか、
リタイヤした場合にスタッフとのコミュニケーションを捌ききる自信がないとか、
ひとりだけリタイヤして宿で腫れ物扱いはツライとか、
そういうのはあったんですが、
「ブログに書くことがない」
という恐怖が、そのどれをも上回るプレッシャーとしてのしかかってきました。
もう甘えは許されない。
実はハセツネからこっち、ずっと左膝がイヤな感じで、ちょっとしたことで痛みが出る状態でした。
ただ、はっきり言って登りでペースを上げるのはもう無理です。
なので、その分フラットなところは全部走り、下りは膝にダメージがこない範囲ギリギリまでペースを上げる。
もはや、これでいくしかない。膝を温存できる状況ではなくなりました。
次の関門は16:00です。残り3時間。
しばらく爆走(本人談)していると、前方から随分としょぼくれたノゾさんがやってきました。
「つーじー。キツイよ〜、ヤバイよ〜」
ここですれ違ったということは、かなりペースダウンしているということです。
朝のお返しに、イケルイケル!と鼓舞します。
「ありがとう〜。つーじーも次の関門間に合うよ!エイドであったかいカフェオレもらえるから!」
カっフェ・オっ・レがっ飲みたいのっと口ずさみながら、林道を5Kほど進み、CPCに15:00ころ到着。
ノゾさん、もうカフェ・オ・レなかったよ。
ここもなんとか生き残ったものの、全く時間に余裕がありません。むしろ、この区間なぜか貯金を減らしてしまいました。
ここからは、日が暮れて夜パート。ヘッドライトを準備して、気を取り直して出発です。
そして、この時点でジェルが切れました。
エイドのバナナを数本失敬して、ここから先はバナナで凌ぎます。
※そして以降は写真を撮っている余裕が全くなくなりましたので、テキストのみでお付き合いください。
《CPC〜CPB2》
実は、この区間が私的には最難関。
次の関門は21:00ですが、20Kほど先で、最長区間です。
しかも、21:00にCPB2にいるようでは、ゴールの制限24:00には絶対に間に合いません。
可能な限り早く、できれば19:30くらいにはCPB2にたどり着きたいところ。
しかし、夜間なのに10Kに及ぶ一気の大くだりがあり、その直後、序盤のおばかさんクラスの登りが控えています。
登りで1キロ30分近くかかる可能性があることを考えると、下りは8分台を死守したい。
いざゆかん!!
颯爽とCPCを出て、さっき来た道を引き返します。
そう、ここも折り返しなんです。
いま15:30手前くらい。関門まで30分強しかありません。
向こうから来るランナーに、残り200mだよイケル!400mだから頑張れ!と声をかけます。
だんだんとCPから離れて、時間も過ぎて行きます。
この人はまだ間に合う、この人はギリギリか、この人はもう。。
みんな、ここまで同じ道を走って、同じツラさを味わってきた人たち。
加油!加油!と声をかけて進みました。
すれ違う人もいなくなり、また自分の戦いに戻ります。こっちも余裕がないんでした。
しかし、ほどなくして、あっさりと道路に出ます。
林道ではなく、ちゃんと舗装された道路です。
目指す先は遥か下に見えていて、あんなとこまで行くのかよと、近くにいたランナーと一緒に爆笑しました。
でも、この道路あそこまで繋がってね?
10Kのくだりって、これ全部道路じゃね?
(と、私のゴーストが囁きます。)
これはもらった。
計画どおり、膝に負担がこないよう調整しつつ、キロ8前後でくだります。
ところが、しばらく山道的な道路をくだっていると、突然、結構な交通量の峠道的な道路に合流してしまいました。
峠道なので、当然歩道はないのですが、真っ暗な中、前から後ろから、藤原とうふ店的なやんちゃさを発揮したクルマがビュンビュンきます。
本来的な意味で死ぬ。こえぇー。
こっちもこわいですが、あっちも、突然峠道にヘッデンがぬるんと現れて、さぞかし肝を冷やしたことでしょう。
谷の方から、窓を開け放して演歌的な曲を熱唱するお母さん方のカラオケが、二重三重に響き渡ってきます。これはあれか、随分と世俗的だけれども、レクイエムか?
キロ8を維持しながら、なんとか生きてカラオケの里までくだりきりました。
しかし、くだりきったということは、ここから最後のゲキ登りがはじまるということです。
CPB2までは、5キロ弱ってとこでしょうか。
現在18:00すぎ。
仮にキロ30で行っても、次の関門には間に合うはず。
さっき失敬したバナナを食して気合いを入れ直し、演歌の後押しを受けながら、山に向かいます。
しかし。
全く話にならん。ぜんっぜん登れねー。
なんだこれ?
一発目より絶対キツイ。
なぜこのタイミングでロープがあるような登りが出てくるのか。
なぜ暗闇の中、三点支持を使って登らないとならないのか。
というか、さっきから演歌うっさい。
ずっと遠くの山の中腹、明かりがチラついています。
これを登ってあそこまで行かないといけないんだとすると、絶対に間に合わない。間に合わないが、ブログのために行かねばならない。
あまりにツラすぎて、途中から脳内でブログを執筆することで現実世界から逃避しました。(このブログの構想の大部分はそのときに練られたものです。)
執筆活動に勤しんでいると、突如として開ける視界。目の前には、文明世界の証であるアスファルトの道。
そして、100m先にCPB2が見えています。
「助かった〜。。」
思わず声が出てしまうくらい、この登りは追い込まれました。
なお、途中で遠くに見えた明かりは、ぜんぜん関係ありませんでした。
《CPB2〜ゴール》
ただいまCPB。
ぐったりしたランナー達が、焚火を囲んで座っています。人のことは言えませんが、全員ゾンビです。かゆい、うま。
残り13K。現在19:15くらい。
ようやく、完走が見えてきました。
直前の登り、キツさの割に時間がかかっていなかったようです。思ったより距離が短かったのかもしれません。
というのも、ずいぶん前から時計の距離表示がかなりズレています。あるはずのエイドが3キロ先だったり。もう手元の距離表示は当てになりません。
どんぶりをもぐもぐしながら、壁に張り出してある地図を眺めていると、CPCの折り返しですれ違った日本人ランナーがいます。
いつの間にか抜かれていたようですが、間に合っていてよかった。
声をかけてみると、なんと友達の友達であることが判明。ここまでの健闘を称え合い、ゴールで会おうと約束して別れます。
さて、こちらもトイレを済ませたら出発です。
ちなみに、フォルモサトレイルではCPごとにトイレがありますが、CPAとCPCは穴です、ただの穴。
CPBのトイレは水洗で文化的。ただし、和式です。日本時代の名残でしょうね。
というわけで、トイレはCPBをおすすめします。私の通過した時間帯にはもう紙がきれていたので、ウェットティッシュなどを持っておく方がいいでしょう。
なお、台湾は、一般に、紙を流さずにゴミ箱に捨てる山小屋スタイルなのでご注意ください。
ここから先しばらくは、お昼過ぎに露出女子たちとキャッキャしながらくだってきた道の登り返しになるので、雰囲気はだいたいわかっています。
さっきまでと比べれば、もうチョチョイのチョイです。
ささーッと登り切り、残すは林道のくだりのみ。
ここまでくればもう大丈夫でしょう。
全歩きでもゴールには間に合うことを確信して、ほっとひと息。
ただ、このくだり、スピードを緩めるわけにはいきません。
ゴールでチームのみんなが待っています。
みんな、自分のレースを終えて疲れているにもかかわらず、です。
もう、まわりに走っているランナーはひとりもいません。みんなゾンビの如く歩いています。
しかし、こちらはセリヌンティウスを待たせている!1分1秒も無駄にはできない!
と、メロスばりの覚悟で走りはじめたのですが、
くだりはじめの1キロ12分。
真っ暗すぎて、林道の路面がよく見えません。
ゴロゴロ転がっている石に足を取られて、足首がぐにゃりぐにゃりします。
Ontakeの林道が舗装路に感じられるくらいの荒れっぷり。
ここで捻挫してタイムアウトは最悪です。捻挫するくらいなら、ゆっくりでも確実に前に進むべきでしょう。ここから、我慢の数キロが続きました。
いや、待てよ?
たしか、ウエストライト持ってきてなかった??
ザックをガサゴソすると、はい、ありました。
かなり頭は鈍っていますが、煌びやかに復活!
ここから爆速(本人談)で、前にいるランナーを抜きまくりました(数人)。
手元の距離表示上はとっくにゴール地点を過ぎましたが、まだぜんぜん森の中。でも、もう慣れた。
街におりると、出迎えてくれる人がそこここにいます。
加油!しか聞き取れませんが、あとちょっと!とか、おつかれさま!とか、そんな言葉をかけてくれているのがわかります。
謝謝!謝謝!
そして、最後の橋を渡り、ゴールはすぐそこという地点に、いました。
「つーじー?」
リアルMKTが待っていてくれました。
脳内MKTとはここでお別れ。助かったよ、ありがとう。
あとは本物が、ゴールまで最後の数百メートルを並走してくれます。
MKTに、ありがとうと優勝おめでとうは言えたと思うんだけど、あとは何を喋ったかよく覚えていません。変なことを話していやしないだろうか。
ゴール前、MKTがスッと離れて、ひとりでゲートをくぐりました。
迎えてくれるチートリの仲間たち。
MRT、MKT、アキラさん、ノゾさん、もとぴー、ありがとう、何時間も待たせてごめん(レオレオはまだ走ってる)。
18時間24分23秒
時刻は22:24です。
ゴール後、飲み放題のビールを5秒で飲み干して、長い旅が終わりました。
速い人には速いなりの戦いがあり、関門ファイターには関門ファイターにしかわからない戦いがあるのが、このスポーツの面白いところ。
超長文のレポートになりましたが、国内でフォルモサトレイルについて書かれたものの中で、おそらく最も遅い完走者によるもののはず。
チャレンジするかどうか迷っている人にとって、何がしかの参考になれば。
帰国後、最後に羽田でビッグサプライズ。
入国ゲートを出たところに、フォルモサ御一行様的な案内板を持っている人がいる。
なんと、体調不良でDNSを決め、台湾行きを見送ったほっさんがいるではないですか!?
帰国便の時間にあわせ、こっそり羽田まで迎えにきてくれたのだそう。
MKTの涙腺が崩壊したのは、ここだけの話。
プロフィール
-
Trippersのトレイルランニングチーム。
走力を上げる事を目指すのではなく、月に一回みんなで山を楽しむというスタンスで活動しています。